岡倉覚三『茶の本』
植木鉢をいじる人は、
はさみの人よりも
はるかに人間味に富んでいる。
水や日光についての彼の心やり、
寄生虫との戦い、霜への恐怖、
芽の出方がおそいときの心痛、
葉が光沢を帯びてくるときの狂喜を、
われわれは愉快に見守るのである。
岡倉覚三『茶の本』
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岡倉覚三は岡倉天心の本名。
『茶の本』で知られるところ
耳にしたこともあるかと思います。
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『茶の本』は、その表題から
「茶道の入門書」ととられがちですが、
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実際には後半生をアメリカで過ごした覚三が
日本の伝統文化である茶道や茶を通して、
日本・東洋の世界観や自然観の持つ意味を伝えるために
世界に向けて英語で発信した本です。
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原題は『The Book of Tea』といいます。
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ちなみに、
この時代に、日本国外に向けて
日本の伝統文化を説いた本に
新渡戸稲造の『武士道』があります。
かんたんに違いをいうと
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『武士道』が文武両道を主にした
日本独自の思想(ルール)を示したもの。
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であるのに対し
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『茶の本』では
武よりも文、和の精神が大事。それこそ
日本あるいは東洋の伝統文化の礎なのだと説いています。
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同書は仏教、道教、華道との関わりのうえに
茶道があるととらえ、章は第一章から第七章まで
六章で「花」について記されています。
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覚三にとって『茶の本』は
「現在を永遠とするための美の経典」
であったといいます。
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明治時代の終わりに書かれた本ですが、
いま読んでも、説かれた美は永遠であり
心に通じる名文です。
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この数か月、
おうちで花を楽しむ人が増えた傍らで、
花を育てる人たちのご苦労は
一層増大であったと推察します。
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気持ちばかりではありましたが
おもいはかるたびに、
この言葉を思い出したものでした。
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「植木鉢をいじる人は花鋏の人よりもはるかに人情がある。」
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『茶の本』は青空文庫 で
村岡博訳版が読めます◎
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イソトマ 花言葉「心をひらく」