声を聴く
お客様からのご相談でよくいただくもののひとつに
「友人の身内にご不幸があったと聞いたので花を贈りたい」
というものがあります。
「友人から身内の訃報を聞いた」けれど
「友人とご家族は同居していない」ので
「お花と一緒に手紙も送りたい」けれど
「文面が上手く書けないからお願いしたい」
このようなご相談です。この場合ここには「どんな花がいいか」と「手紙の書き方」という2軸の「わからない」が潜んでいます。そしてどちらかというとお花よりも「手紙の文章どうしよう」のほうが重き悩みです。
花に関してはというと、おおよそ御香典の額を参考にするなどすれば最適解を導くことができるんですね。けれどお手紙やその内容については、ご家族と面識がある(ない)、相談者とご友人との関係性、お届け先とのご関係によって違いますからご提案も十人十色です。
通常はメールやお電話でのご相談なので、相談者とは面識がありません。でも「相手の感情を尊重する」ことに関しては、対面であってもオンラインであっても変わりありませんよね。忘れてならないのは「なぜお客様が例文にたよらず自作の手紙を送りたいと願っているのか」に気づこうとする心づかいだと思うんですね。そしてその願いを叶えたい理由には、必ずその人「らしさ」が潜んでいると思うのです。そのらしさを引き出すために声を聴く。という日々です。
さて、先日のご相談者はAさん。その内容は「この近年になってオンラインで知り合った友人からお父様が亡くなったと聞いたので、ご実家のお母様に充ててお花を贈りたい」というものでした。
Aさんの話によると、かねてよりそのご友人Bさんからはお父様のお話を聞いていたとのこと。お父様が手作りしたジャムや干し柿をおすそ分けしてもらったこともあり、Aさんから見てもBさんが父親をとても尊敬していたことは見て取れたようです。ですから今回のご訃報を受けたときにも、Aさん自身せめてもの感謝の気持ちを伝えたい、と思われたようでした。
一般的に、急なご訃報に接した際のお手紙は長々と書くことはせず、簡潔にするのがよいとされています。けれどAさんのように感謝や畏敬の念がこみ上げ、その想いを伝えたいというのも素直な衝動ですよね。
先にも書いたように、私たちは相手の感情を尊重すること、そして声を聴くことをとても大切にしています。ですからAさんの場合も、Aさんの抱く「伝えたい」という気持ちを知るには、メールだけのやり取りでは難しさをおぼえたため「もしよかったら」とお電話でのご相談を申し出ました。すると快くご連絡をくださり、以降はお互いの言葉を受け止めあい、抱いていた悩みや不安も解消させ、Aさんとしても気持ちの整理がついたご様子でした。その際にご提案した手紙の原案はこのようなものです。
****と申します Bさんとは***で知り合い 以来大変お世話になっております ①
このたびBさんよりお父様のご法要の報を受け 心よりご冥福をお祈りいたします ②
毎年 Bさんが送ってくださるお父様手作りのジャムやお野菜は 私ばかりでなく家族にとっても季節を知ることができる楽しみのひとつでした
ご生前 お父様とお会いすることは叶いませんでしたが
いつもBさんが話してくださったお父様のお人柄は 今なお印象深く
思い出に刻まれております ③きっと今もご家族皆さまの事を あたたかく見守っていて下さることと
存じます
ご法要にあたり心ばかりのお花を送らせていただきました
あらためてお父様のご冥福とご家族皆様のご健康をお祈り申し上げます ④
ポイントは、
① 受取人(お母様)に対して自己紹介・Bさんとの関係性
② お悔やみの言葉
③ Aさんが伝えたい想い・故人との思い出
④ ご家族への気づかいと結びの言葉
といったところでしょうか。
私たちにとって、お客様のお声を聴くことは、相手の心をひらく静かないとなみです。世間一般のマナーを鑑みつつ、相手が「一番大切にしたいこと」に気づきにいく。声が聞こえなくとも、聴こうとする気づかいと想像力。私たちに求められている力のように思います。ほら、「聴」という字は「耳+目そして心」と書きますでしょう。これはきっと、相手の話をきくときには「耳と目と心」を使って聴きなさい、という訓えなのだと思います。
たまに「そこまで手間と時間をかけるならお金もらえば?」といった声も聞こえますが、私たちにとってこれはサービスではなく気づかいなのです。仮に「する」ことがサービスだとしたら、「いる」ことは相手への気づかいと言えそうです。「聴く」も然りでしょう。
その後Aさんからは無事にお手紙もお花も届いたとの連絡を受けました。お気持ちが届いて何よりでした。それにしても、悲しみの場面に贈る花であればなおのこと、はじめは涙交じりであったり、不安や緊張感が伝わってくるものですが、ちょっとお話しするだけで、誰の声にも笑みがこぼれてくるのがわかります。そのたびに、臆せずメールだけでおわらせず、声が聴けて良かったなあと思います。声って不思議なものですね。