10月
待てど暮らせど来ぬ人を 宵待草のやるせなさ 今宵は月も出ぬさうな 竹久夢二
毎年夏が伸び秋が縮み、花もずれて咲くものだから、今の秋がどのあたりなのかわからなくなる。たよりになるのは月です。
あのメダルのような月が、夜々に育っているのを眺めては、花も月の満ち欠けのように約束されてくれたらいいのにと思う。
待宵草(マツヨイグサ)という夏の花があります。夕方になると鮮やかな黄色を咲かせ、翌朝には萎んでしまう花。仲間に月見草(ツキミソウ)がありこちらは白花、夕化粧(ユウゲショウ)は赤花、と呼称に区別がありますが、おおむね同じ花とされているのは、なんだかもったいない。
どの名にもあるように、宵を待って咲く姿は、夜の闇をお化粧するように鮮やかで、白い花においては月の白磁に似せたかのように清らかです。
竹久夢二の詩でつくられた「宵待ち草」という歌があります。
夢二は恋多き人だったそうですが、あるひと夏の実ることなく終わった恋が、この詩を着想させたそう。原詩はこちら。
むかしの詩人の書くものには花や草木の描写がとても多くあり、そうした詩情にふれては人の心の弾みや沈殿に感じ入り、また人間の植物にたいする敬虔な思いはなんて尊いと、日本語を使えてよかったと、しみじみ嬉しく思います。日本人でよかったって思います。今日もいちりんあなたにどうぞ。
マツヨイグサ 花言葉「気まぐれ」