月は空にメダルのように

Posted on 2023/10/24

ここにきて朝夕の気温もさがり、日暮れのはやさ、秋が冴えると同時に、だんだんと秋が減るのを感じます。冬は寄ります。陽はまるく温もり、月はしっとり濡れ色です。

それにしても、昼間のさわやかさとは一転して、秋夜に漂う寂寥感は、言葉では尽くせないといつも思う。心の安らぎと隣り合わせにくる寂しさがなにものなのか、しっくりくる言葉がわからない。

なんて思いながら帰りに見上げると、月がありました。ふいと中也の「月はメダルのように」を思いだしました。

かたちはまだだったけれど、昨日もメダルのようでした。けれど夏よりは冷たく、色はやっぱり濡れていた。ふと都会の夏の夜にラアラアと唄って帰っていく、男たちの気持ちがわかるような気がしました。

そういえば今日は霜降、秋は晩秋。あっというまに。今日もいちりんあなたにどうぞ。

月は空にメダルのやうに、
街角に建物はオルガンのやうに、
遊び疲れた男どち唱ひながらに帰つてゆく。  
――イカムネ・カラアがまがつてゐる――

その脣はひらききつてその心は何か悲しい。
頭が暗い土塊になつて、
ただもうラアラア唱つてゆくのだ。
商用のことや祖先のことや
忘れてゐるといふではないが、
都会の夏の夜の更――

死んだ火薬と深くして
眼に外燈の滲みいれば
ただもうラアラア唱つてゆくのだ。

「都会の夏の夜」詩集『山羊の歌』中原中也
紫苑 みつけた

シオン 花言葉「追憶」