10月
月は空にメダルのように

ここにきて朝夕の気温もさがり、日暮れのはやさ、秋が冴えると同時に、だんだんと秋が減るのを感じます。冬は寄ります。陽はまるく温もり、月はしっとり濡れ色です。
それにしても、昼間のさわやかさとは一転して、秋夜に漂う寂寥感は、言葉では尽くせないといつも思う。心の安らぎと隣り合わせにくる寂しさがなにものなのか、しっくりくる言葉がわからない。
なんて思いながら帰りに見上げると、月がありました。ふいと中也の「月はメダルのように」を思いだしました。
かたちはまだだったけれど、昨日もメダルのようでした。けれど夏よりは冷たく、色はやっぱり濡れていた。ふと都会の夏の夜にラアラアと唄って帰っていく、男たちの気持ちがわかるような気がしました。
そういえば今日は霜降、秋は晩秋。あっというまに。今日もいちりんあなたにどうぞ。
月は空にメダルのやうに、
街角に建物はオルガンのやうに、
遊び疲れた男どち唱ひながらに帰つてゆく。
――イカムネ・カラアがまがつてゐる――その脣はひらききつてその心は何か悲しい。
頭が暗い土塊になつて、
ただもうラアラア唱つてゆくのだ。
商用のことや祖先のことや
忘れてゐるといふではないが、
都会の夏の夜の更――死んだ火薬と深くして
眼に外燈の滲みいれば
ただもうラアラア唱つてゆくのだ。

シオン 花言葉「追憶」