花が咲いたならそれを二人、同じ気持ちで眺めたい。
山上憶良が詠んだ「萩が花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝顔の花」は秋の七草としてよく知られます。けれど秋の花はこれに限りません。
見ただけで、厄落としでもしたような心地にになるコスモスの群生、秋の薔薇は初夏のそれとは違う野趣味、菊だってさびた野菊ほど美しい。赤まんまも咲く、紫式部もつく、しらぬ雑草さえもどれも皆、ほのぼのと秋を染めあげます。自ら熟し朽ちるまで、美しく生命の豊かを全うする秋の花たちです。
それらは皆、子供の頃のどこかの景色に咲いた花。いつかの景色を思い、瞼の上であわせれば、あの花も、あの花も、あの木も、いまもあの場所から自分に心を寄せてきます。きっと誰にもそうやって、記憶の原点に立ち返らせてくれる花があるんじゃないかしら。
私にとっては彼岸花。今年は今ごろ見ごろに咲いています。とっても好きな花だけど、いつも思い出すのは縁起が悪いと一瞥されたときの驚き、胸の底に落っこちた期待、握りしめてつぶれた茎。なんども呟いた、こんなにきれいな花なのに。
そうやって心に拾っておきながら、ずっと忘れていた記憶に声をかけてくる。秋の花はそんな花かもしれません。そうなの、花が咲いたならそれを二人、同じ気持ちで眺めたい。今日もいちりんあなたにどうぞ。
ヒガンバナ 花言葉「悲しい思い出」