八つ手の花
八ツ手咲く今も昔も路地ぐらし
-菖蒲あや
昨日の仏手柑は、手招きするような仏の掌に見立てて縁起物とされましたが、八つ手も、大きな掌状の葉に魔物を追い払う力があるとされ「鬼の手」「天狗の羽団扇」などと呼ばれました。
八つ手は東京ではよく見る樹であり花です。そのどこにでもあるという庶民性は、戦前の住宅事情にありました。昔の東京は貸家に住むのが普通で、そこには必ず小さな庭があり、八つ手が植えられていたといいます。
その理由は単純に日陰でも育ち、落葉しないので庭を汚さず、値も安いので借家に植えるにはちょうどいいから。
ところが、それほどよく目にする植物であるにもかかわらず、この花ほど目立たぬ花もありません。とくに憎まれてもないけれど、親しみをこめて選ばれたというでもない。ただ虫たちは寄ってきます。きっと蜜が甘いんでしょうね。
同じ冬の植物でも、正月にみる松や竹には役目があります。花はひとつ飾ってもめでたいし、赤や緑や白の色にも意味があります。
たいして八つ手は、常緑だけどありがたがられず、白い丸いも可愛がられず、今も貸家の庭の頃と変わらぬ地味のままです。
しかしどんなに寒くても生き生きとしている、きりっと色を成しているの見ると、凡は凡なりに意思があるんだろうとまた思う。
思うたびに、冬の花は潔くていいなと憧れます。今日もいちりんあなたにどうぞ。
ヤツデ 花言葉「健康」