朽葉(くちば)
「朽葉色(くちばいろ)」という日本色があります。平安時代からある色で字のまま「朽ちた葉の色」のことです。
朽葉には「朽葉四十八色」といわれるほど多くの類色があり、いまの季節にみる黄朽葉、赤朽葉のほか、盛夏の緑がしげる中に落ちる葉は「青朽葉」といいます。
枕草子にも「汗衫(かざみ・正装用の服)は春は躑躅、夏は青朽葉」とあり「青朽葉」は梅雨の時期に好まれた色だったようです。
朽葉ときくと、植物に宿った命の衰えや廃れる様が目に浮かびます。それは鮮やかな紅葉にはないもの。しかしそんな地に落ちた葉にさえも、平安人は美をみたのですから、昔の人の自然に対する敬虔な思いには頭が下がるばかりです。
そしてこの季節になると、身近に雑木林が多くあった昔がうらやましくなります。
雑木とは、楢やクヌギなどの良木にはならない木のことですが、その紅葉は「雑木紅葉」と称されるほどの美しさ。落葉樹がまだあった時代、木々が綾なす彩りが山の肌に染みつく一景は、いかばかりであったことでしょう。
きっとそれは今にみても、失うまいと心に刻み込みたくなる景色。今年の紅葉にもささやかな期待が膨らみます。便りが待ち遠しいこの頃です。