「銀杏の葉」Ginkgo Biloba

Posted on 2023/12/17

東京はいま銀杏が真っ盛り。まるで賛歌のように降り注ぐ黄葉は、春の花吹雪を思い出させるほどに美しく幸福感に満ちています。そのあたり一面が絨毯敷きのように黄色く染まるのを眺めながら、あらためて都心の街路樹には、銀杏が多いということにも気づきました。

銀杏をみると、いちどは「銀杏の葉」というゲーテの詩を思い出します。ゲーテ60代の頃に25も歳の離れた若い女性に贈ったとのこと、そうと聞くだけで盲目的に恋焦がれていたゲーテの心情が伝わる、ラブレターともみてとれる恋愛詩です。

恋多き天才としても名が高かったゲーテですが、そんな彼が贈ったこの詩が知れ渡ることによって、東洋からやってきた銀杏は、西洋ではロマンスの象徴になりました。わたしはひとり、でもあなたとはふたり。すてきですね。今日もいちりんあなたにどうぞ。

東の国からはるばると
わたしの庭にうつされたこの銀杏の葉には
心あるひとをよろこばす
ひそかな意味がかくれています。
もともとこれは一枚の葉が
二つに分かれたものでしょうか。
それとも二枚がむすぼれ合って
ひとつに見えるものなのでしょうか。
この問いに答えようとして
わたしはほんとうの意味がわかりました。
わたしの詩を読むたびにお感じになりませんか
わたしはひとり でもあなたとふたりでいるのだと。

ゲーテ『西東詩集』より「銀杏」小塩節訳