1月
あえる通信 2024春 短歌-1
奥山の八つ峰の椿つばらかに今日は暮らさね大夫の伴
大伴家持
大伴家持の屋敷で催された宴会で詠まれた歌で、「大夫の伴(ますらおの皆さん)、今日は奧山の峰々に咲く椿のように、心ゆくまで楽しい一日を過ごしてくださいね」と詠っています。「つばらかに」とは「思い残すことなく」という意味があり、この一言だけでも、客をもてなす家持の気持ちが伝わってくる歌です。
万葉集に椿の歌は8首、長歌をいれると9首あります。「つらつら椿」という句を用いた歌も多いことからも、この時代の椿は、一枝ひと花を切って愛でるのではなく、つらなりあって咲く野生趣を眺めることで、心を遊ばせていたことがわかります。
椿の魅力はなんといっても生命力にあふれた濃緑の葉と、紅をつけた口唇のような花の艶やかさでしょう。それだけでも十分に象徴的ですが、万葉の人たちは、さらにこの花を言祝ぎとして受け入れ、歌に詠んでは、生活の中に溶け込ませていたようです。