ラブレター

Posted on 2024/03/22

一日の終わり、今夜はラブレターをあなたへ。
今日もいちりんあなたにどうぞ。

文ちゃん。

僕は、まだこの海岸で、本を読んだり原稿を書いたりして 暮らしてゐます。何時頃 うちへかへるか それはまだ はっきりわかりません。が、うちへ帰ってからは 文ちゃんに かう云う手紙を書く機会がなくなると思ひますから 奮発して 一つ長いのを書きます ひるまは 仕事をしたり泳いだりしてゐるので、忘れてゐますが 夕方や夜は 東京がこひしくなります。さうして 早く又 あのあかりの多い にぎやかな通りを歩きたいと思ひます。

しかし、東京がこひしくなると云ふのは、東京の町がこひしくなるばかりではありません。東京にゐる人もこひしくなるのです。さう云う時に 僕は時々 文ちゃんの事を思ひ出します。文ちゃんを貰ひたいと云ふ事を、僕が兄さんに話してから 何年になるでせう。(こんな事を 文ちゃんにあげる手紙に書いていいものかどうか知りません)

貰ひたい理由は たった一つあるきりです。さうして その理由は僕は 文ちゃんが好きだと云ふ事です。勿論昔から 好きでした。今でも 好きです。その外に何も理由はありません。(略)

芥川龍之介

クリスマスローズ 花言葉「私を忘れないで」

あなたに会いたい