弔いのバラ
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私は自分を、幸福な男だと思った。悲しみは、金を出しても買え、という言葉が在る。青空は牢屋の窓から見た時に最も美しい、とか。
感謝である。この薔薇の生きて在る限り、私は心の王者だと、一瞬思った。
太宰治『善蔵を思う』
バラにまつわる伝説は、世界中に数多にありますが、「愛の象徴」として語り継がれる諸説が多い中、実は「弔いの花」としての話も少なくないことをご存じですか。
古代ローマ人にとってバラは愛と美、喜びの象徴とされていました。その時代、花嫁と花婿は愛の象徴である薔薇の花冠をつけましたが、同様に葬儀でもふんだんのバラの花を墓にまき、植えられたといいます。
後世も薔薇の花は本質的に「人を弔う花」、死者の名誉に敬意を表すための花として、飾られてきました。
若者の死には、白い薔薇が長期間墓前に供えられましたし、棺架の上には薔薇の花びらがまかれ、また純潔を意味する白バラの花輪が墓に飾られることもありました。
そんな白バラに対し、赤バラは愛、生命、恋に破れた胸の「血色の象徴」とされ、イギリスでは婚約中の女性が亡くなると、胸に赤い薔薇を載せて埋葬されたという話もあります。
キリスト教においては、花は「神の愛・赦し・慈悲」棘は「罪」の象徴です。殉教者の墓に薔薇の花が掘られた場合は、薔薇は「復活」を象徴するのだそうです。
忠実な恋人たちの墓から咲き出したという伝説もあるバラ。これに類似した別の伝説もありますが、いずれにおいても、この花が漂わせる甘い芳香と輝く色が、人々の悲嘆や沈鬱を和らげてきたことは、変わらず普遍なのですね。
今日もいちりんあなたにどうぞ。
白バラ 花言葉「約束を守る」
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2002年創業 フラワーギフト専門店 Hanaimo 店主
普段はお祝いやお悔やみに贈る花、ビジネスシーンで贈る花の全国発送をしている、花屋の店主です。
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