一房の葡萄

Posted on 2024/08/21

有島武郎の短編に『一房の葡萄』というのがあります。もともと好きな作家ではありますが、このちいさい物語にひろがる色彩豊かな描写と美しい筆致は、またも読んでひと目に好きになりました。

https://www.aozora.gr.jp/cards/000025/files/211_20472.html

ここには絵を描くことが好きな「僕」と、クラスメイトの西洋人ジム、そして僕が心を寄せる、若い女の先生が登場します。

「僕」の通う学校は、横浜の山の手にありました。西洋人が多く住む町でもあり、通学路から見る景色は、建物も、海の青も、船から見える煙の色さえも美しく、それは「僕」に言わせると「眼がいたいように綺麗きれい」な景色でありました。

絵の好きな「僕」は、目に入る景色を出来るだけ美しく描こうとします。しかし彼が持っている絵の具では、いくら描いても出せない色があり、ある日僕はとうとう、ジムの絵の具箱から藍と洋紅の二色を盗んでしまいました。

「僕」の盗みは、まもなく見つかってしまうのですが、大好きな先生は、反省している僕の気持ちを察してくれました。そして二階の窓まで伸びた蔓から一房の葡萄を切り取って僕の膝に置き、言いました。

「明日はどんなことがあっても学校に来なければいけませんよ。あなたの顔を見ないと私は悲しく思いますよ。きっとですよ。」

また別の日にも先生は、再び窓に手を伸ばして一房の葡萄をとり、それをハサミでぷちんと二つに切り分けると、僕とジムに分け与えてくれました。一房の葡萄が二人の仲を取り持ってくれた。そんな物語です。

それにしても僕の大好きなあのいい先生はどこに行かれたでしょう。もう二度とは遇えないと知りながら、僕は今でもあの先生がいたらなあと思います。秋になるといつでも葡萄の房は紫色に色づいて美しく粉をふきますけれども、それを受けた大理石のような白い美しい手はどこにも見つかりません。
有島武郎『一房の葡萄』より

先生の真白な手の平に、紫色の葡萄の粒が乗っているその美しさ。二つに分けた葡萄に託された象徴性。清潔感。ここにも、心に響く景色がありました。もしよかったら、触れてみてくださいね。

今日もいちりんあなたにどうぞ。

ブドウ 花言葉「思いやり」

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フラワーギフト専門店 「Hanaimo」 店主
普段はお祝いやお悔やみに贈る花、ビジネスシーンで贈る花の全国発送をしている、花屋の店主です。「あなたの想いを花でかたちに」するのが仕事です。since2002
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