9月
吾もまた紅
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一つ一つはもう憶い出せないが、私は妻とあの土地で暮した間、どれほどかずかずの植物に親しみ、しみじみそれを眺めたことか。妻が死んだ翌日、仏壇に供える花を求めて、その名を花屋に問うと、われもこう、この花を、つくづくと眺めたのはその時がはじめてだった。が、その花を持って家に帰る途中、自転車の後に同じ吾亦紅と薄の穂を括りつけてゆく子供の姿をふと見かけた。お月見も近いのだな、と私はおもった。
原民喜『吾亦紅/草花』より
花屋にも、吾亦紅(われもこう)がお目見えしました。我もまた紅、我もこうありたい、そんな花の願いから、この名前がついたというのは興味深く、というのも、こうみえてバラ科の植物だというのです。
どうみてもバラには程とおい見た目、紅というよりえび茶のように渋い色、美しいかというと何ともですが、どこか惹かれる風情があります。
山や草原で見つけても気づけないほど地味ですが、「我も紅、我もバラのように在りたい」という願いが、この色となり深めていったのだとしたら、その健気さに同情せずにはいられません。
見るたびに、秋の花とはどうしてこう、華やぎとともに哀れさを感じさせるんでしょう。この花も、淋し気に見えたときほど寄りたくなります。
ひょっとしたら、耳をすませば声がするかもしれませんね。今日もいちりんあなたにどうぞ。
ワレモコウ 花言葉「自立」
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フラワーギフト専門店 「Hanaimo」 店主
普段はお祝いやお悔やみに贈る花、ビジネスシーンで贈る花の全国発送をしている、花屋の店主です。「あなたの想いを花でかたちに」するのが仕事です。since2002
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