一つのメルヘン

Posted on 2024/10/07

秋の夜は、はるかの彼方かなたに、
小石ばかりの、河原があつて、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。

陽といつても、まるで硅石か何かのやうで、
非常な個体の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。

さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでゐてくつきりとした
影を落としてゐるのでした。

やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもゐなかつた川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました……

「一つのメルヘン」と題されたこの詩は、中原中也の詩集『在りし日の歌』より。

若くして亡くなった弟への鎮魂詩とされる、この美しい作品は、宮沢賢治の童話『銀河鉄道の夜』を読んだ後で、作られたのだといいます。

夜であるのに陽が射していたり、その陽が粉末のように音を立てて落ちたり、流れてもいなかった川床に、水が流れ出したり。ありえない光景が目の前に繰り広げられる不思議な感覚。ああたしかに、有機と無機が行き交う賢治の作品に見る世界観が感じられます。ここに現れる蝶は、弟でしょうか。

気づけば今日も夜。さらさらと、さらさらと流れていった一日。さらさらとさらさらと、灯火親しむ秋の夜です。

今日もいちりんあなたにどうぞ。

デュランタ 花言葉「あなたを見守る」

読書の秋

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フラワーギフト専門店 「Hanaimo」 店主
普段はお祝いやお悔やみに贈る花、ビジネスシーンで贈る花の全国発送をしている、花屋の店主です。
「あなたの想いを花でかたちに」するのが仕事です。since2002
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