人よりも空

Posted on 2024/11/06

空が空の底に沈み切ったように澄んだ。高い日が蒼い所を目の届くかぎり照らした。余はその射返しの大地にあまねき内にしんとして独り温もった。そうして眼の前に群がる無数の赤蜻蛉を見た。そうして日記に書いた。――「人よりも空、語よりも黙。……肩に来て人懐しや赤蜻蛉」
 これは東京へ帰った以後の景色である。東京へ帰ったあともしばらくは、絶えず美くしい自然の画が、子供の時と同じように、余を支配していたのである。
夏目漱石『思い出す事など』二十四 より

一年が詰まってくるこの時期になると、いつか旅先で見た景色を、ふと思い出すことがあります。自然の色に詰まった香りがよみがえり、忘れられない嬉しさを思いだし、あの酔うほどの喜びをまた味わう。しみじみと過ごした時間が、秋の水のように澄んで流れてゆくのを感じては、心が揺すられぎゅんとなる。

朝の光、昼の日差し、夕の茜、愛おしむ気持ちで見上げた旅の空。となりがどんな気分で見ていたか、それは思い出にないけれど、あの安らぎは、季節が巡ってくるたびに心の帯をゆるませて、あたたかな気持ちにしてくれます。とくにこんな寒さが募ってくる頃には。

冬を目前にして、もういちど思い出した秋の空です。秋は空。ずっと慕わしかった人よりも。今日もいちりんあなたにどうぞ。

ハナミズキ 花言葉「私の想いを受け取ってください」

ハナミズキ

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フラワーギフト専門店 「Hanaimo」 店主
普段はお祝いやお悔やみに贈る花、ビジネスシーンで贈る花の全国発送をしている、花屋の店主です。
「あなたの想いを花でかたちに」するのが仕事です。since2002
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