経験その雑感

どんなつまらない雑草でも花でも、懐かしい日記の一片となり得るのである。それは、幸福な瞬間の思い出を呼び返すものは、一つとして無意義ではあり得ないからである。
それゆえ、いろいろな時代のかたみである様々なものを、無価値なものとして棄ててしまうことは、今もって私には中々できないだろう。
そういうものは、直接あの昔に私を帰らせてくれるからである。私はそうした昔のことを思いだすと悲しくなるのではあるが、やはり思いだすことは嬉しいものである。
ゲーテ「詩と真実」第二部第六巻から　新潮文庫『ゲーテ格言集』より