柿
里古りて柿の木もたぬ家はなし
芭蕉
田舎の秋の原風景に欠かせないといえば柿。それは砂糖が庶民の口に入らなかった時代に、皆して庭に柿の木を植えたのが所以といいます。
家で食す果実でしたから、これといった規格もなく植えられたため、当時は今より品種も多くあったとか。
また食べるための柿は梯子をかけて高いところから取り、手に届く低い柿は、道ゆく旅人のために取っておいたという「いい話」も残っています。
有田の陶工、初代柿右衛門が、夕日に映える柿の実を見て赤絵磁器を作ったとする逸話は知られることろ。熟柿の色に魅せられて、その色を作品上で再現することには随分と苦労をしたそうです。
このように、美術品にも影響を残すほど、柿は昔から人々の生活と深い結びつきがありました。
ところが時代は変わり、甘味としてよりもその緻密で硬い材のほうが重宝されるようになり、柿は村里の景色から消えていくことになります。
とはいえ心に残されている原風景とはいつまでも鮮やかなもの。ぎゅんと色を詰めた秋空の中に朱色の実を見つけると、懐かしさが込みあげ思わず、あっと声になります。それは桜にもない雪にもない、柿にのみ抱く親しみです。
そしてそんな気持ちになるたびに、秋が短くなることも寂しく思う。これ以上、四季が消えてしまわないことを切に願うばかりです。
カキ 花言葉「自然美」